HF SSBトランシーバの製作 2008.01.31
かなり前に作って現在は分解してしまったHF帯のSSBトランシーバを作り直すことにしました。
構成を考えているうちに、やはり高い周波数のルーフィングフィルタを使ったUPコンバージョンにしたいと思いました。
RoofingFilterの実験 2008.01.31
まずルーフィングフィルタに求められる性能はどの位なのでしょう。
INRAD社から、メーカー製のリグに取り付けるものが発売されています。
INRAD社のHPで発表されている特性を見てみると
|
|
|
FT-1000 |
FT-1000MP |
TS-950 |
|
|
|
IC-755 |
IC765 |
|
これを見てみると、どれも頂上はきれいな平坦ではないようです。挿入損失も5〜10dbあるようです。
スパンが10KHz/divなので上に副共振があるかは不明です。
そこで、以前NGC鈴木さんに頒布していただいた71.5MHz帯の水晶を使って作ってみることにします。
この水晶を使ったハーフラティスフィルタは以前少し実験しました。
この時の感じでは副共振が強く出て使えないというものでしたが、水晶を選別していなかったので選別するとどうなるかと思っていました。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
20KHz/div センター周波数71.564MHz RBW=1KHz
その中の71.5575MHzの水晶を全部見てみたところ使えそうなものがあるのが判りました。
上の3枚の内左2枚の写真の水晶がまずまず使えるのではと判断した物です。下の3枚の右側2枚の水晶は近くに副共振が強く出そうな物です。-
下の写真の上が6素子ラダーの実験基板、下がハーフラティスの実験基板です。
(一部水晶をパラ接続しています。)
|
|
|
SPAN=60KHz REF=10dbm SPAN=200KHz REF=10dbm
TG LEVEL=0dbm
|
|
|
SPAN=60KHz REF=10dbm SPAN=200KHz REF=10dbm
TG LEVEL=0dbm
どちらでも何とかなりそうです。
挿入損失は、ラダーフィルタが少なく、副共振はハーフラティスフィルタの方が小さいようです。
帯域幅はどちらも大差なさそうです。
|
帯域外減衰も確認しておきます。 低いほうの跳ね返りは、実装方法の問題だろうと思います。 上の副共振は55KHz上に出ています。 第2IF周波数は、仙波さんに頒布していただいた水晶の中から5.12MHzか4.194MHzを使って ラダーフィルタを作ろうと思っていますのでこの程度の副共振は問題にならないと見ています。 |
今回は、ハーフラティスフィルタでやってみたいと思います。
ハーフラティスフィルタを基板に実装してみました。
今回は、両面基板を使って作ってみました。その効果か、下図のように帯域外減衰量もしっかり取れています。
|
(JG1EAD 仙波さんのHP内の Poorman’s TRXを考える(フィルタ編)を参考にさせていただきました) 低い方の水晶をすべてパラ接続しています。 Span=60KHz REF=10dbm TGLEVEL=0dbm |
本物のスペアナで確認しておきます。
|
|
副共振は、39db下になりました。 右はグループデレィの様子です。 |
|
|
狭い範囲です。 3db帯域幅は3.56KHz 60db帯域幅は12.40KHz シェイプファクタは3.5となりました。 (今回は、SSB専用とします。) 挿入損失は、約7dbです。 中心周波数は、71.560MHz になりました。 |
この特性でしたら、十分使えるのではないでしょうか。
今回は、ハーフラティスにこだわったため水晶を12個も使うという豪華版となりました。
通常でしたら、6素子のラダーフィルタで十分使えるものが出来そうです。
|
|
左図は、前に実験したときのものです。 右図は、同じ条件の今回の特性です。 前に実験したハーフラティスフィルタに比べて選別した効果が出ています。約60KHz上に出る副共振も約40db下ですし近傍のスプリアスは、ほとんど見えません。(実際にはあります) |
|
左の図は、水晶シングルの時の特性です。 パラ接続の効果を確認していただけるのではないかと思います。 今回は、入出力のインピーダンスマッチングは何もしていません。 パラ接続したのがマッチングにいい方向で働いたのかもしれません。 しかし、両端の水晶をパラにするよりも中の水晶をパラにしたときのほうが特性の改善が顕著でした。 ハーフラティスフィルタのマッチングにも、ラダーフィルタでのマッチング手法が同じように 使えるのでしょうか? 今回は、使えそうな物が出来たので今後の課題ということにします。 |
LadderFilterの実験 2008.02.04
第2IFを、いくらにするのか決めなくてはいけません。
候補としては、手持ちの水晶の中で数量がある
4.192MHz
4.91520MHz
5.120MHz
の3種類の中から決めたいと思います。
それぞれバラック実験したところ、5.120MHzの水晶を使ったものが一番いい特性でしたのでこれに決めます。
|
実験中の様子です。 定数の決め方は、あちらこちらで詳しく説明されていますので省略します。 いつものように両端の水晶はパラ接続しています。 |
|
|
出来上がったフィルタの特性です。 6db帯域幅 2.78KHz 60db帯域幅 4.78KHz シェイプファクタ 1.72 挿入損失 −3.4db 少し左右対称になっていませんがまずまずの特性 が出ていると思います。 |
|
|
帯域外減衰量も90db以上取れています。 グループデレィも普通の特性です。 |
IF部の実験 2008.02.14
IF部をどうするかということですが、候補としては、手持ちにある
@ 2SC1855 or 2SC2348
A MC1350
B uPC3112GV
C TA7124P
等ですが、今回はあえてICは使わずにTrで作ってみることにします。
2SC2348という、フォワードAGC の石を使ってみます。
2SC1855を使った回路は
HamJournal No46 「2SC1855によるIFアンプの実験 JF1DMQ、JH1TXG、JH1GNU」
トロイダル・コア活用百科 IFアンプ(AGCアンプ)
等に記事があります。
今回は、HamJournalの記事を参考にさせていただきOPアンプを使った定電流回路を使ってTrのICを制御して結果的にゲインをコントロールする
回路の実験をしてみます。
|
まず1段の実験回路です。 右のグラフは、IC=6mAに固定 した時の入出力特性です。 −3dbm位の出力までリニアな 動作です。 周波数は5.12MHzです。 |
|
ICと出力の関係図です。 ゲイン27db AGC範囲 37db ICが7mA−19mAまでほぼリニアな特性が得られました。 |
|
2段にした時の様子です。 原典でもそうですが、対数的な直線性はあまり良くありません。 |
|
3段にした時の様子です。 最初の2段と後の1段の間に5素子のクリスタルフィルタを挿入 しています。 上と同様、対数的な直線性は良くありません。 |
|
2段+クリスタルフィルタ+2段にした時の特性です。 どういう訳か、対数的な直線性がかなりよくなりました。 フィルタの挿入損失等を含んで全体で100dbのゲインと Vagc 0.4Vから1Vにかけて約115dbのAGCレンジが得られました。 |
Vagc |
Ic |
Gain |
100dbのアンプが作れました。 原典では、電源電圧を高くしないとゲインが取れないとありましたが+12Vの電圧で100db取れました。 逆に電圧を上げていくと発振しました。 原典は2SC1855で、今回は2SC2348を使っているのでデバイスの差かなとも思っています。 |
0.40 |
31.9 |
101.3 |
|
0.45 |
34.9 |
91.2 |
|
0.50 |
38.6 |
81.5 |
|
0.55 |
42.2 |
69.4 |
|
0.60 |
45.5 |
58.5 |
|
0.65 |
49.5 |
47.0 |
|
0.70 |
53.2 |
36.2 |
|
0.75 |
56.9 |
27.0 |
|
0.80 |
60.5 |
18.0 |
|
0.85 |
64.2 |
9.0 |
|
0.90 |
67.9 |
0.5 |
|
0.95 |
71.1 |
-6.7 |
|
1.00 |
75.1 |
-16.0 |
|
(V) |
(mA) |
(db) |
|
実験中の様子です。 うなぎの寝床です。 このような感じで作るのが一番安定して動作するようです。 |
|
無入力の時の出力雑音です。 REFLEV=10dbm C.Freq=5.12Mhz 6KHz/div Vagc=0.4V 約−30dbmの雑音出力があります。 この数値自体がいいのか悪いのか、良く判りません。 |
|
TG LEVEL=−30dbm ATT=80db INPUT=−110dbm REFLEV=10dbm C.Freq=5.12Mhz 6KHz/div 出力は、約−10dbmを示していますので 全体のゲインは、約100dbあることが判ります。 |
|
その後AGC回路まで組み上げて実験しました。 |
|
追加した、AGCコントロール部です。 |
|
全体のAGC特性です。 全体の回路図 最終的な、利得は100dbになりました。 |
|
SG(8657B)から、−140dbmの信号を入力した時の 出力です。 ノイズレベルに比べて10dbm上です。 |
|
無入力時のノイズレベルです。 |
|
IFIN=0dbm |
|
|
|
IFIN=−50dbm |
|
|
|
IFIN=−70dbm |
|
|
|
IFIN=−120dbm |
|
|
無入力時のノイズレベルに不満がありますが、GAIN=100db AGCレンジ=110dbとほぼ目標どおりの物が出来ました。
今回、AGCの評価用に4066を使って治具を作ってみました。
4066の制御用の端子を、AG−201の矩形波で駆動してIF信号をON−OFFするものです。
|
|
ケースは、以前入手していたダイソーの ものです。 |
AG−201の出力波形は50Hzの矩形波
|
AGC = SLOW |
AGC = MIDDLE |
AGC = FAST |
IN= 0dbm |
|
|
|
|
|
|
|
IN= −20dbm |
|
|
|
|
|
|
|
IN= −40 dbm |
|
|
|
上が、出力波形です。下が、AGCのコントロール電圧です。
若干オーバーシュートするところがありますが、これで実際の信号を聞いた時にどう感じるかです。
このまま進めて、実際の信号を聞いてから時定数を変更するか決めます。
MIX部の実験 2008.02.28
MIXをどうするかという事ですが、HJ誌 No94「受信機最新設計法とキー・コンポーネント」の中にある シングル・バランス型プシュプル・トランジスタ・ミキサ
が面白そうだと思っていました。(JR1PWZ 清水さんが、HPの中で実験されています。)この清水さんのHPの中の実験記事を参考にさせてもらい実験して
みました。
まず、「IRF 510」を使って実験してみました。
RF 8.00MHz 8.01MHz +6dbm 2信号、 LO 13MHz 20dbm、 IF 5MHz、 Vd=15V、Id=55mA
で実験したところ、変換損失−4db、IM3=−66dbm IP3=39dbm
というような結果になりました。損失を10db位許せば、30MHz以下では使えそうですが今回の用途には使えそうにありません。
次に、「0502−07(NEC)」を使ってみました。
IFを72MHzにしてもIM3が32dbmで十分使えるものが出来ましたが、BANDを切り替えた時にIM3がかなり変化します。
低いRF(3.5MHz)でLO=75.5MHz IF=72MHzでIP3を最良(+32dbm)に調整すると高い周波数(28MHz)でIP3が悪化します(+25dbm)
高いRF(28MHz)でLO=100MHz IF=72MHzでIP3を最良(+34dbm)に調整すると低い周波数(3.5MHz)でIP3が悪化します(+26dbm)
結局、現状では使えるメドがたたないのであきらめてごく平凡な2SK125×4使ったMIXを採用することにしました。
|
実験基板です。 2SK125はすべてパラ接続しています。 電圧は、15Vで、電流は140mAです。 2SK125は選別していません。 出力側には、インピーダンスマッチング回路を入れています。 |
2008.03.02
|
その後、基板を作ってみました。 この基板は、エッチングでは無くカッターナイフで不用なところを 切り取る方法で作りました。 この基板に実装したところ、出力のインピーダンス整合用の LCは無い方がいい結果になりました(付けても同じレベル よりは良くなりませんでした)のではずしました。 バラックの時は、どこかにハンダの不良でもあってその不具合 を解消してくれていたのかもわかりません。 下に改めて、各周波数の特性を取ってみました。 今回は、2SK125のIdssを測って選別したものを使用しました。 電圧は、+12Vにしました。 電流は、約120mAです。 2SK125はかなり熱くなりますが、手で持てる範囲ですので 大丈夫だと思っています。 |
下表は、それぞれの周波数での特性です。 IF周波数=72MHz 入力は、+8dbmの2信号です。(基本周波数+20KHz)
LOはすべて上側にとりました。(3.5MHzの場合 3.5MHz+72MHz=75.5MHz) LO=+20dbm
本来は、こうしたアクティブMIXでは、若干のゲインが期待できるのですが今回はIM重視で調整した結果、変換ロスがあります。それでも3.5db〜7dbなので
DBMよりはいいようです。
IM3は、周波数が高くなるほど良い結果になりました。
これは使っているコアの影響かなとも思っています。(今使っているのは富士電気化学製の「K14 TF1204」というものだと思いますがどのような性質の物なのかは
不明です)。
どちらかといえば、低い周波数のほうのIP3がもっと大きいほうが良いのでしょうが、良さそうなコアが入手出来れば替えてみたいと思います。
周波数 |
変換損失 |
IPIP3 |
IM3 |
スプリアス |
3.5MHz |
7db |
31dbm |
|
|
7M |
5db |
33.5dbm |
|
|
14M |
4.5db |
35dbm |
|
|
21M |
3.5db |
36dbm |
|
|
28M |
3.5db |
35dbm |
|
|
50M |
5db |
38dbm |
|
|
一つの周波数だけでしたら、調整次第でIPIP3はもう少し良い値になりますが全体的に同じような特性に調整すると、上記のようにIPIP3は31〜38dbm
ということになりました。
全体的に、LOの漏れが最小になるように調整すると、IM3は最良になりました。
周波数を変化させるとIM3が交互に良くなります。どうしてこうなるのかは不明ですが悪いIM3でIPIP3を測定しました。
今回のTRXは28MHzまでの予定でしたが、50MHzまで使えそうなのでAD9952を使ったLOの出来具合で50MHzまでにするかもしれません。
LO→RFへの、LO信号の漏れの様子です。(LO=+20dbm) アイソレーションは約30dbといったところです。
どの周波数にしても、LOとは72MHz離れているので、バンドパスフィルタで抑制出来ると思っています。
|
|
|
LO=75.5MHz |
LO=100MHz |
LO=122MHz |
RF=3.5MHz |
RF=28MHz |
RF=50MHz |
2008.03.30
RFアンプ
「0502−07(NEC)」を使ってみました。回路は、トロ活の中にあるベース接地のNFB回路です。
|
シングルとパラ接続と2種類作ってみました。 結果は、性能的にはほとんど差が無いということになりました。 2SC1815で実験したときには、パラ接続が有効でしたが今回 は効果がありませんでした。 シングルのほうを採用するこにします。 電源は+15V、Icは120mA流しています。 パラ接続の方は、せっかく作ったのですからミキサーのポストアンプ に使うかもしれません。 |
|
|
左図は、0−300MHzの周波数特性です。 150MHzまではほぼフラットな特性です。 (TG レベル −10dbm) ゲインは、7.5dbです。 右図は、0−100MHzの詳細です。 (TG レベル −20dbm) 3.5−50MHz間では、±1.5dbの間に収まっています。 |
|
各周波数での、入出力特性です。 +23dbm出力でまだ飽和していません。 各周波数間での、バラツキもほとんどありません。 問題は、NFですが 測定はしていませんがこの回路ではそんなに酷い 値にはならないだろうと思います。 |
各周波数での、IP3の様子です。
入力は20KHz離れの+8dbmの信号です。(手持ちのSGでは、+8dbmが取り出せる最大です)
周波数 |
IPIP3 |
IM3 |
3.5MHz |
35dbm |
|
7Mhz |
34dbm |
|
14MHz |
37dbm |
|
21MHz |
37dbm |
|
28MHz |
34.5dbm |
|
50MHz |
38.5dbm |
|